FC2ブログ

新虹日報

タイ、バンコク、ゴーゴーバー、ナナプラザ、レインボー、パタヤ、旅、酒、飯……

 
Category: フィクション  

ペイバー代を払った嬢

IMG_9343.jpg

「ここで大火災が発生したら、俺は間違いなく逃げ遅れて死ぬだろうな……」

そんなことを考えながら、今宵もコの字型のナナプラザで飲んでいた。まともなタイ人からは掃き溜めのような扱いを受けているナナプラザだが、俺にはこの掃き溜め感が心地よい。ただし、堅気のタイ人女性に「ナナプラザによく飲みに行く」などとは絶対に言ってはならない。貴兄がたとえ男前だとしても、そんなことを言った瞬間、彼氏候補からは除外されることになるだろう。

レインボー某店でひとり寂しくグラスを傾ける俺。友だちなんていやしない。レインボーの嬢はスレている、ヤリ代をまけてくれない、ロングを拒否する……貧乏な俺にはそんな批判は関係なかった。ペイバーなどめったにしないのだから。派手なビッチがステージでゆらゆらと踊るのを眺めながら飲むだけで十分だった。

貧乏暇なし。しかも、容姿が優れているわけでもなく、タイ語が上手なわけでもなく、社交的なわけでもない。そんな俺がもてるはずもないのだが、どこの世界にも変わり者はいる。

今夜も馴染みのプー(20)が話しかけてきた。ゴーゴー嬢おきまりのイサーン(東北部)出身。バンコク近郊の工場で働いていたが、給料が安すぎるのでゴーゴー業界に転職したという。「高校生の妹に私と同じ仕事をしてほしくないから、自分が頑張るしかない」。よく聞く話だ。

「ねえ、七助、ドリンクおごってよ」

「は? そんな金あるわけないだろ。どっかいけよ」

「キーニャオ!」

舌打ちしてどこかに行ってしまったが、次のダンスタイムが終わると、またやって来た。

「ドリンクおごってくれないなら、ペイバーしてよ」

「おいおい、ふざけんなよ。オレはひとりでゆっくり飲みたいんだ」

「わかった、じゃあ自分でペイバー代払って着替えてくるから待ってて!」

アホかと思い黙殺したが、しばらくすると本当に私服姿で戻ってきた。さすがに断る理由はない。その夜はプーとラチャダーのディスコでウイスキーを飲み、ホイクワン市場の食堂でタイ飯を食い、自宅に連れ帰った。娼婦とただでヤッたところで何の自慢にもならないが、金も請求されなかった。貧乏な俺にはただありがたかった。

翌朝。自分は会社に出勤しなければならないが、彼女は深い眠りについている。昨夜からの一連の流れもあり、無理矢理たたき起こすのも気が引けた。エアコンを切って電気を消し、部屋の鍵を掛けてポストに入れておくよう言い残し、家を出た。

ゴーゴー嬢を信用するのは愚かである。エアコンはちゃんと切ってくれただろうか、下手したら何か盗まれているかもしれない、鍵だけは掛けてくれていると良いのだが……。不安が募った俺は仕事が終わり次第、コンビニでビールを買い、自宅に直帰した。

彼女は俺が言い残したことを忠実に実行していた。それどころか、部屋は掃除され、たまっていた洗濯物まで干されていた。

やれやれ……一息ついて缶ビールを喉に流し込んだが、いつになくほろ苦かった。その夜は彼女のことが頭から離れなかった。

明日はプーに一杯おごってあげよう――。
スポンサーサイト
08-2014
SUN MON TUE WED THU FRI SAT
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31 - - - - - -

«   »

検索フォーム
Twitter
ゴーゴーバーに限らず日々の活動や思考を発信
 
プロフィール

新羽七助

Author:新羽七助
【しんは・ななすけ】
I am a gogo journalist.
バンコク居住歴約11年の編集記者、マンガ原作者。唯一無二のゴーゴーバージャーナリストとして長年活動。ナナプラザのレインボーグループを中心に、ゴーゴー突入回数は2000回超。パタヤも訪問。東南アジア諸国連合(ASEAN)10か国制覇。アフリカにも進出。ほぼ日刊ほいなめ新聞所属。旅や歓楽街、ミャンマー情勢などをテーマに複数媒体に寄稿。仕事のご依頼などは下記にお願いします。
shinhananasuke
@gmail.com